命の材料は、宇宙にもあった――リュウグウとベヌーが持ち帰った”手がかり”

第5回では、5億年以上前の海で動物が一気に増えた「命の大繁栄」を見ました。では、そもそも命の材料は、どこから来たのでしょうか。

今回の主役は、地球から遠く離れた小惑星まで出かけ、「砂」を持ち帰った2つの探査機です。日本の「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウの砂と、NASAの探査機が持ち帰ったベヌーの砂。この2つの砂から、命の材料になる物質が次々に見つかっています。さらにベヌーの砂には、太陽系ができるより前の”星のかけら”まで混じっていました。

この記事では、

  • 2つの小惑星と、持ち帰られた砂
  • なぜ「持ち帰る」ことが大事なのか
  • リュウグウとベヌーで見つかった命の材料
  • 太陽系より古い塵
  • 「見つかった」ことの本当の意味

を順番に見ていきます。


2つの小惑星、2つの探査機

リュウグウベヌー
探査機はやぶさ2(JAXA)OSIRIS-REx(NASA)
地球に届いた時期2020年12月2023年9月
持ち帰った砂の量約5.4g約121.6g

リュウグウは直径およそ1kmの小惑星です。はやぶさ2は表面の砂を採ったあと、銅の弾を撃ち込んで人工のクレーターを作り、その地下の砂も採取しました。小惑星の地下の砂を地球に持ち帰ったのは、はやぶさ2が初めてです。

ベヌーの砂は約121.6gで、小惑星から持ち帰られた砂としては過去最大です。

なぜ「持ち帰る」ことが大事なのか

実は、命の材料になる物質は、以前から隕石の中に見つかっていました。宇宙から落ちてきた石を調べれば、アミノ酸などが出てくることは分かっていたのです。

ただし、地上に落ちた隕石には弱点があります。落下したあと地面に置かれ、地球の空気や生き物に触れてしまいます。そのため「見つかった物質は、本当に宇宙のものなのか?地球で混ざったものではないのか?」という疑いを、完全には消せませんでした。

一方、探査機が持ち帰った砂は、密閉されたカプセルで届きます。リュウグウの研究を率いた北海道大学の大場康弘准教授は、この方法なら地球の環境による汚染の心配はない、と説明しています。「持ち帰る」ことの価値は、この”疑いのなさ”にあります。

リュウグウで見つかったもの

リュウグウの砂の最初の分析では、アミノ酸(体を作るタンパク質の材料)など、さまざまな有機物が見つかっていました。

2023年には、RNAという分子の「文字」にあたる物質の一つ、ウラシルが見つかりました。RNAは、生き物の体の中で遺伝情報を扱う分子です。あわせて、ビタミンB3(ナイアシン)も検出されています。どちらもごく微量ですが、汚染の心配がない砂から見つかったことに意味があります。

さらに2026年には、海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの研究チームが、DNAとRNAの「文字」にあたる5種類の物質(塩基)が、リュウグウの砂からすべて見つかったと発表しました。2023年の研究ではウラシルだけが見つかっていましたが、これは分析に使える砂が限られていたためだった可能性があります。今回は、十分な量の砂と改良した分析方法を使って調べ直した結果です。

ベヌーで見つかったもの

ベヌーの砂の分析は、さらに豊かな結果を出しています。

2025年1月に発表された研究では、生き物がタンパク質を作るのに使う20種類のアミノ酸のうち、14種類が見つかりました。DNAとRNAの「文字」にあたる5種類の塩基も、すべてそろっていました。アンモニアも非常に多く含まれていたことが分かっています。

そして2025年12月、東北大学の古川善博さんらの研究で、糖が見つかりました。RNAの骨組みに使われる糖(リボース)と、体のエネルギー源として使われる糖(グルコース)です。グルコースが地球外の試料から見つかったのは、これが初めてでした。

古川さんは、ベヌーの砂からはこれまでに5種類の塩基とリン酸(骨組みをつなぐ部品)が見つかっており、リボースが加わったことで「RNAを作るための部品がすべてそろった」と述べています。

見つかったのは”部品”であって、”完成品”ではない NASAは、糖の発見は生命の証拠ではないと明記しています。

太陽系より古い塵

ここからは、命の材料とは別の、もう一つの発見です。

ベヌーの砂には、太陽系ができるより前の「星のかけら」が混じっていました。死にゆく星が吹き出したガスや、星の大爆発(超新星爆発)の中で固まった、ごく小さな粒です。この粒は、太陽系ができる前から存在していたことになります。地球カレンダーで言えば、1月1日より前の出来事です。

米国のグエンさんらの研究チームは、この星のかけらを詳しく調べました。すると、超新星爆発でできたとみられる炭素とケイ素の粒の割合が、ベヌーの砂では31%もありました。これまでに調べられた他の隕石などでは5%ほどなので、約6倍です。

論文は、ベヌーのもとになった天体が、超新星の塵が特に多い場所で生まれた可能性を示しています。近くで起きた超新星爆発の塵が入り込んだのかもしれない、という見方も述べられていますが、これはまだ「可能性」の段階です。

もう一つ興味深いのは、ベヌーのもとになった天体は、水の影響を強く受けていたことです。水に弱い星のかけらの多くは、壊れてしまうと考えられていました。ところが、砂の一部には、あまり変化していない部分が残っていました。そこには水に弱い星のかけらや有機物が、他より多く残っていたのです。太陽系が生まれたころの材料が、小惑星の中に”保存”されていたことになります。

第4回で取り上げた3I/ATLASは、太陽系の外からやってきた、太陽より古いかもしれない天体でした。今回は、太陽系の中の小惑星の砂に、太陽系より古い星のかけらが混じっていた、という話です。同じ「太陽より古いもの」でも、探査機のおかげで、実際に手に取って調べられるようになりました。

「見つかった」ことの意味

ここまでの発見は、確かに驚きです。ただし、言えることと言えないことを分けておく必要があります。

言えるのは、アミノ酸、DNAやRNAの文字にあたる物質、糖といった、地球の生き物が使う材料が、地球の外の小惑星にもあった、ということです。糖については、ベヌーのもとになった天体の中で、塩分を含む水の働きでできた可能性が研究で示されています。

一方で、言えないこともあります。

  • 材料が見つかったことは、命が見つかったことではありません。
  • 材料が宇宙から地球に運ばれてきた「可能性」は語られていますが、それが地球の命の始まりになったと確かめられたわけではありません。
  • RNAが最初の生命の中心だったという考え方(RNAワールド仮説)を支える結果だと研究者は見ていますが、これも仮説の一つです。

おわりに:材料があることと、命になることは別の話

第1回では、地球が5回も滅びかけた歴史を見ました。第5回では、その前夜に命が大繁栄したことを見ました。今回は、さらにその手前にある、命の「材料」の話でした。

命の材料は、宇宙のあちこちにあるのかもしれません。そうだとすると、次の疑問が浮かびます。材料は宇宙にあるのに、なぜ地球では、それが「命」になったのでしょうか。

リュウグウとベヌーの砂は、その答えをまだ教えてくれません。ただ、答えを探すための確かな”手がかり”を、私たちの手のひらの上に置いてくれました。地球カレンダーの1月1日より前の星のかけらが、いま、研究室の顕微鏡の下にあります。

第1回「地球は5回滅びかけていた。そして今、6回目が進行中」、第2回「ペルム紀末の大量絶滅はなぜ「史上最大」になったのか?」、第3回「酸素は「毒」だった――大酸化イベントは、本当に地球最初の「大量絶滅」だったのか?」、第4回「太陽より”年上”の彗星?――2025年、地球をかすめていった”よそ者”の正体」、第5回「絶滅の前に、命の大繁栄があった――カンブリア爆発と、その”前夜”の化石」もあわせてどうぞ。


参考文献

  • Glavin, D. P. et al. (2025) Abundant ammonia and nitrogen-rich soluble organic matter in samples from asteroid (101955) Bennu. Nature Astronomy 9, 199–210.
  • Furukawa, Y. et al. (2025) Bio-essential sugars in samples from asteroid Bennu. Nature Geoscience. https://doi.org/10.1038/s41561-025-01838-6
  • Nguyen, A. N. et al. (2025) Abundant supernova dust and heterogeneous aqueous alteration revealed by stardust in two lithologies of asteroid Bennu. Nature Astronomy 9, 1812–1820.
  • Oba, Y. et al. (2023) Uracil in the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu. Nature Communications 14, 1292.
  • Koga, T., Oba, Y., Takano, Y., Naraoka, H., Ogawa, N. O., Sasaki, K., Sato, H., Yoshimura, T. & Ohkouchi, N. (2026) A complete set of canonical nucleobases in the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu. Nature Astronomy 10, 655–663. https://doi.org/10.1038/s41550-026-02791-z
  • NASA (2025) Sugars, ‘Gum,’ Stardust Found in NASA’s Asteroid Bennu Samples. (2025年12月2日)
  • NASA (2025) NASA’s Asteroid Bennu Sample Reveals Mix of Life’s Ingredients.

#リュウグウ #ベヌー #はやぶさ2 #小惑星 #宇宙 #科学がすき

コメント

タイトルとURLをコピーしました