夜空を見上げれば当たり前のようにそこにある月。実はこの月が「どうやってできたのか」は、探査機が月に何度も行き、岩石まで持ち帰った今でも、完全には決着していません。
地球の46億年を1年のカレンダーに圧縮すると、月ができたのは1月の上旬ごろ。第6回で見た「地球カレンダーの1月1日より前の星のかけら」のすぐ後に起きた、地球史でもごく初期の大事件です。
この記事では、
- 昔考えられていた3つの説
- 現在もっとも有力とされる説
- その説が抱える「そっくりすぎる」問題
- 2023〜2026年の最新研究
- 言えること、言えないこと
を順番に見ていきます。
地球カレンダーで見る月の誕生
| 地球カレンダー | 出来事 |
|---|---|
| 1月1日 | 地球が誕生(約46億年前) |
| 1月上旬ごろ | 月ができる(約45億年前) |
| 11月18日ごろ | カンブリア爆発(第5回) |
| 11月27日ごろ | オルドビス紀末の大量絶滅 |
※地球46億年を1年(365日)に換算したおおよその日付です。
①昔は「3つの説」で論争していた
親子説・兄弟説・他人説
アポロ計画より前は、この3つが争っていました。
- 親子説:高速で回っていた原始地球の一部がちぎれて月になった
- 兄弟説:太陽系ができるとき、地球と同じ場所で一緒にできた
- 他人説:別の場所でできた月が、たまたま地球の重力に捕まった
どれも一長一短でした。ところが、アポロ計画で月の岩石が持ち帰られると、月が大規模に溶けた時期があったことなど新しい手がかりが次々に見つかり、この3つの説はどれも難しくなっていきます。そこで1970年代に現れたのが、次の説です。
②今もっとも有力な説:火星サイズの天体がぶつかった
ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説)
約45億年前、火星ほどの天体が原始地球に斜めにぶつかり、飛び散った破片から月ができた。
地球ができてまもないころ、火星ほどの大きさの原始惑星「テイア」が地球に斜めに衝突しました。飛び散ったテイアと地球の岩石が地球のまわりに集まり、やがて月になった、という説です。
この説が「有力」とされるのは、月の成分や、月ができたころに大規模に溶けていたことなど、多くの観測結果をうまく説明できるからです。
③それでも残る謎:月が地球に「そっくりすぎる」
ただし、この説には弱点があります。
月の岩石の成分は、地球の内側の岩石の層(マントル)によく似ています。ところが、衝突で飛び散って月の材料になるのは、おもにテイア側の岩石だと考えられてきました。もしテイアが地球とまったく別の場所でできた天体なら、月はもっと地球と違う成分になるはずです。
つまり「月がなぜこんなに地球そっくりなのか」が、長年の大きな謎でした。
④最新研究で見えてきたこと
テイアは「ご近所さん」だった?(2025年)
2025年11月に科学誌『Science』に掲載された研究では、アポロが持ち帰った月の岩石と地球の岩石を高精度で比べました。その結果、月と地球の鉄の成分の比率は、見分けがつかないほど同じでした。
研究チームはこの結果をもとに、さまざまなパターンを検討し、地球もテイアも太陽系の内側で生まれた可能性がもっとも高いと結論づけています。テイアは地球より少し太陽に近い場所で生まれたかもしれない、ということです。つまりテイアは、遠くから来た「よそ者」ではなく「ご近所さん」だったのかもしれません。成分が似ていても、不思議ではなくなります。
ただし研究チーム自身も、この似ている結果だけではテイアの正体までは決められない、としています。
月は「数時間」でできた?(2022年・2026年)
もう一つの注目点は、月ができるまでの時間です。従来は、衝突でできた破片の円盤からゆっくり月が育つと考えられてきました。
これに対して2022年、英ダラム大学などの研究チームが、従来の10倍以上細かい高精度のシミュレーションを行いました。すると、衝突の直後に月のような天体が一気にできる場合があることが分かりました。この場合、月の材料に地球の岩石が多く含まれるため、「そっくり」問題の説明にもなります。
さらに2026年9月、米国の研究チームが新しい結果を『The Astrophysical Journal Letters』に発表しました。岩石が持つ「硬さ」と、衝突前の天体の温度を初めて計算に入れた研究です。条件によっては、従来どおり破片の円盤から月ができる場合もあれば、約5時間で月が丸ごとできる場合もありました。研究チームは、衝突前の天体の温度が結果を大きく左右する、としています。
ただしこれも、コンピュータの中での結果です。
テイアのかけらは地球の中にある?(2023年)
テイアの破片が見つかっていないことも、この説の弱点でした。これに対して2023年、米カリフォルニア工科大学などが『Nature』に新しい説を発表しました。
地球の深いところ(核のすぐ外側)には、大陸ほどの大きさの巨大な塊が2つ存在していることが、地震波の観測から知られています。シミュレーションの結果、これがテイアの岩石の名残かもしれない、というのです。一つの塊は月の2倍近い大きさとも言われます。もし本当なら、テイアは月になっただけでなく、地球の中にも残っていることになります。
こちらも「可能性がある」という段階で、確かめられたわけではありません。
言えること、言えないこと
最新の研究を整理すると、次のようになります。
言えること
- 月は約45億年前、巨大な衝突に関係してできたとする説が、現在もっとも有力とされている
- 月と地球の成分は非常によく似ており、この説にとっては難しい問題になっている
- 衝突の様子(月ができるまでの時間など)については、複数のシナリオが研究されている
言えないこと
- 衝突の細かい様子は、まだ一つに決まっていない
- テイアがどこでできたのか、どんな天体だったのかは、確定していない
- 地球の深部にある巨大な塊がテイアの名残だと、確かめられたわけではない
おわりに:夜空の月は、まだ解けていない謎
第7回では、地球で命が生まれた痕跡を見ました。その地球のすぐそばに、巨大な衝突でできたかもしれない月が浮かんでいます。
アポロ計画から50年以上が経った今も、月の岩石や最新のシミュレーションは、新しい手がかりを与え続けています。今後の月探査で新しい試料が持ち帰られれば、さらに謎に迫れるかもしれません。毎晩見上げているあの月は、地球史の初期に起きた大事件の、今も解けていない「目撃者」なのです。
第1回「地球は5回滅びかけていた。そして今、6回目が進行中」、第2回〜第7回もあわせてどうぞ。
参考文献
- Hopp, T. et al. (2025) The Moon-forming impactor Theia originated from the inner Solar System. Science 390, 819–823.
- Denton, C. A., Asphaug, E., Baijal, N., Melikyan, R. E. (2026) Collisional Capture of an Intact Moon Depends on Strength. The Astrophysical Journal Letters 1008(1), L30.
- Kegerreis, J. A. et al. (2022) Immediate Origin of the Moon as a Post-impact Satellite. The Astrophysical Journal Letters.
- Yuan, Q. et al. (2023) Moon-forming impactor as a source of Earth’s basal mantle anomalies. Nature 623.
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