ペルム紀末の大量絶滅はなぜ「史上最大」になったのか?連鎖する原因を最新研究から読み解く

第1回では、地球史に刻まれた5回の大量絶滅を「ビッグファイブ」として駆け足で紹介しました。その中でもひときわ規模が大きかったのが、約2億5000万年前のペルム紀末に起きた絶滅——海洋生物のおよそ96%、陸生種のおよそ70%が姿を消した、史上最大の絶滅です。

前回は「超巨大火山活動による急激な温暖化」とひとことでまとめましたが、実はここ数年の研究で、この絶滅の実像はもっと複雑で、もっと生々しいものだったことが分かってきています。

犯人は一つではありませんでした。温暖化、海洋酸性化、酸素欠乏、有毒金属、そして山火事——複数の「毒」が時間差で連鎖し、生態系を段階的に追い詰めていったのです。今回はその連鎖の中身を、実際の研究に沿って掘り下げてみます。


舞台設定:パンゲアとシベリア・トラップ

当時、地球上のすべての大陸は「パンゲア」という一つの超大陸に集まっていました。この大陸の合体に伴い、地下深くからマグマの塊が上昇してくる「スーパープルーム」という現象が発生し、現在のシベリアの位置で史上最大級の火山活動——シベリア・トラップ——が起こります。

その規模は、体積にしておよそ300万立方キロメートル、面積にして250万平方キロメートル以上(日本列島およそ7つ分)にも及んだと見積もられています。

ここで一つ、長年の謎がありました。この火山活動は90万年以上にわたって断続的に続いていたのに、大量絶滅そのものはわずか6万年ほどという、地質学的には一瞬とも言える期間に集中して起きているのです。「原因」と「結果」の間にあるこの時間的なギャップこそが、ペルム紀末絶滅研究の中心的な謎でした。

「2段階の絶滅」という発見

この謎に対して重要な手がかりを示したのが、東北大学の海保邦夫教授らの研究グループです。堆積岩中に残された有機分子を分析した結果、この大量絶滅は実は2つの段階に分かれており、それぞれで起きていたことが違うということが分かりました。

  • 第1段階:地球規模で陸上の土壌が海へ流出し、それによって浅い海で栄養過多が起こり、酸素欠乏が発生。絶滅の規模としてはこちらの方がより顕著だった。
  • 第2段階:土壌流出は見られず、代わりに海洋深部の無酸素化がピークに達した。

これまでは「1段階目も2段階目も、温暖化と海洋深部の無酸素化が原因」と大まかに考えられてきましたが、この研究によって2つの段階の「死因」の違いが初めて明らかになりました。興味深いことに、同じ研究グループは6600万年前の白亜紀末絶滅(小惑星衝突)についても同様の2段階モデルを示しており、「成層圏に放出された微粒子が太陽光を遮る→気温低下・干ばつ」という第1段階、「その後のCO2増加による温暖化」という第2段階という、驚くほど似た構造が浮かび上がっています。引き金(火山か、小惑星か)は違っても、生態系を追い詰めるプロセスにはよく似た「型」があるようです。

海の中で起きていた連鎖——酸性化から無酸素化へ

海の中では、もっと具体的にどんな連鎖が起きていたのでしょうか。ドイツ・GEOMARのハナ・ユリコヴァ氏らの研究チームは、5億年以上前から存在する腕足動物(貝に似た生物)の化石の殻に含まれるホウ素の同位体を分析し、当時の海水のpHの変化を復元しました。

その結果見えてきたのは、次のようなドミノ倒しです。

  1. 火山からの大量のCO2放出により、海水が急速に酸性化・温暖化
  2. 貝殻など炭酸カルシウムの殻を持つ生物が真っ先に死滅
  3. 温暖化によって陸上の風化(岩石の分解)が進み、河川を通じて大量の栄養塩が海へ流入
  4. 富栄養化が進み、大規模な酸素欠乏と、それに伴う元素循環そのものの変調が発生

なお、この研究では「メタンハイドレート(海底の凍ったメタン)の放出が原因」という、かつて有力視されていた仮説についても検証しており、データ上はその可能性は低いという結論に至っています。仮説が複数あり、しかも研究が進むにつれて否定されるものも出てくる——このあたりも、科学が更新されていく過程として面白いところです。

さらに2023年には、米モントクレア州立大学のイン・ツイ氏らのチームが、CO2放出は実は1回のイベントではなく、明確に区別できる2つの波として起きていたことを示しました。特に大きかったのは2回目の波で、その放出量はおよそ21兆トンの炭素——これは人類が1750年から2020年までの間に排出した累計量(およそ6900億トン)のおよそ30倍に相当します。この2回目の波こそが、絶滅本体を引き起こした直接の引き金だったとされています。

もう一つ、中国科学技術大学のシェン・ヤーナン氏らのチームは、シベリア・トラップ由来のニッケルを含む微粒子(エアロゾル)が海全体に拡散していた証拠を、堆積岩に残されたニッケル同位体から発見しました。これまでで最も軽い同位体比が記録されており、火山活動が海の化学組成そのものを、じわじわと、しかし確実に汚染していったことを示しています。

日本発の研究:数百年スケールで繰り返された悪循環

ここまでの研究は、いずれも数千年〜数万年というスケールでの変化を捉えたものでした。しかし2023年、山口大学の齊藤諒介助教を中心とする国際共同研究チーム(東京大学・東北大学・名古屋大学なども参加)が、さらに踏み込んだ発見を『Nature Communications』誌に発表しています。

このチームは、中国の地層から採取したペルム紀末の堆積岩を、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FT-ICR-MS)という手法を使い、これまでの100倍以上という超高解像度(0.1mm間隔)で分析しました。対象にしたのは、燃焼によって生じる有機分子「多環芳香族炭化水素(PAHs)」——いわば、太古の火事の痕跡です。

その結果分かったのは、「火山活動による山火事→山火事で植生を失った土壌の海への流出→海洋の無酸素化」という悪循環が、なんと数百年という、地質学的には一瞬に等しい時間スケールで、何度も繰り返し発生していたという事実でした。90万年続いた火山活動の中で、こうした短期的な悪循環が繰り返されるたびに、生態系は少しずつ、しかし確実に追い詰められていったと考えられます。

なぜ回復に500万〜1000万年もかかったのか

これほどの規模の絶滅の後、生態系が元の多様性を取り戻すまでには、500万年から1000万年という、地球史の中でも突出して長い時間がかかったとされています。なぜこれほど回復が遅れたのでしょうか。

一つの手がかりは、同じ齊藤氏らのチームが行った続報研究にあります。三畳紀前期の地層に残された「コロネン」という高温燃焼由来の有機物を調べたところ、絶滅の引き金となった火山活動そのものが、その後の三畳紀前期にも断続的に再発していたことが分かりました。生態系が立ち直りかけるたびに、繰り返す火山活動が息の根を止め直していた、というわけです。

また別の角度からは、絶滅直後の海洋が鉄分を多く含みながら酸素が欠乏した特殊な化学状態にあり、その状態が長期間続いたことが回復を妨げていた、とする研究もあります。「火山活動の再発」と「海洋化学の長期停滞」、どちらが主因かはまだ議論が続いていますが、いずれにしても「一度絶滅が起きて終わり」ではなく、環境ストレスがしつこく生態系にのしかかり続けたことが、この異例の回復の遅さにつながっているようです。


おわりに:複合ストレスという教訓

ペルム紀末の絶滅を見ていくと、「一つの巨大な原因が一撃で生態系を滅ぼした」というよりも、「温暖化・酸性化・無酸素化・有毒金属・山火事という複数のストレスが、時間差で、しかも繰り返し折り重なった」というのが実像に近いようです。

第1回の最後で触れた「進行中の6回目の大量絶滅」も、森林破壊・気候変動・海洋汚染・外来種・生息地の消失という、単一ではなく複合的な要因が同時に進んでいるという点で、この構造とどこか重なって見えます。もちろん、原因が特定の生物種の行動にあるという点で、過去5回とは性質がまったく異なる出来事ではあります。ただ、「複数の毒が積み重なると、生態系は個別の対処が追いつかなくなる」という一点だけは、2億5000万年前の海が私たちに教えてくれているのかもしれません。

第1回「地球は5回滅びかけていた。そして今、6回目が進行中」はこちら


参考文献

  • Kaiho, K. et al. (2016) Effects of soil erosion and anoxic–euxinic ocean in the Permian–Triassic marine crisis. Heliyon 2, e00137.
  • Jurikova, H. et al. (2020) Permian–Triassic mass extinction pulses driven by major marine carbon cycle perturbations. Nature Geoscience 13, 745–750.
  • Cui, Y. & Wu, Y. (2023) Volcanic CO2 degassing postdates thermogenic carbon emission during the end-Permian mass extinction. Science Advances.
  • Li, M. et al. (2021) Nickel isotopes link Siberian Traps aerosol particles to the end-Permian mass extinction. Nature Communications 12, 2024.
  • Saito, R. et al. (2023) Centennial scale sequences of environmental deterioration preceded the end-Permian mass extinction. Nature Communications.

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